Design EXtreme Seminar 2013 Report

フォトグラファー、映像制作者、プランナー、Web デザイナーなどクリエイタ-に向けたセミナー「DEXS 2013」が 4月12日開催された。
4つのセッションに分かれ、それぞれの業界のトップクリエイターが登場したこのセミナーをレポートにする。

Interactive session

新しい映像体験の作り方

川村真司

講師:川村真司 (かわむら・まさし)

PARTY クリエイティブ・ディレクター

博報堂、BBH、180 Amsterdam、Wieden & Kennedy といった広告代理店を経て、現在東京とニューヨークを拠点とするクリエイティブ・ラボ PARTY を設立し、クリエイティブディレクターとして在籍。Toyota* や Google* といったブランドのグローバル・キャンペーンを手がけつつ、プロダクト・デザイン、ミュージックビデオのディレクションなど活動は多岐に渡る。

 

新しい作り方を作る

こんにちは、川村真司と申します。

私は現在、仲間と作った「PARTY」という会社で、映像や Web をはじめとするインタラクティブ・コンテンツ、さらにはイベントやプロダクトに至るまで、幅広い制作を行なっています。もともとは CM の仕事をしていたのですが、その後、海外で働いたことなどをきっかけに、ボーダレスな制作をしたいと考えるようになり、今の会社を作りました。

既存の枠組みにとらわれず、実験的な領域にまで踏み込んで物作りをしたいと考え、例えば広告だけでなく、インタラクティブなテレビ番組やモバイルのアプリ、ミュージック・ビデオの制作なども手掛けています。

今日は、貴重な機会をいただきましたので、僕や僕の会社が制作を行なう際に大事にしていることを、事例と合わせて紹介をさせていただけたらと思います。よろしくお願いします。

僕が何かを作る時に強く意識していることを説明する前に、まず見ていただきたいのがこちらの絵です。皆さんもよくご存じであろう「ラスコーの壁画」です。

「ラスコーの壁画」。1万5,000年前の旧石器時代後期のクロマニョン人によって描かれたと言われる。

▲ 「ラスコーの壁画」。1万5,000年前の旧石器時代後期のクロマニョン人によって描かれたと言われる。

この絵が描かれたと言われる旧石器時代は、当然ですが、便利なツールなどない時代です。絵の具も筆も自分で素材を探し、作るしかありませんでした。例えば、赤い色で塗りたければ血を使い、やわらかな線を引きたければ動物の毛で筆を作る。当時の人々は、描きたいものに合わせて道具も作っていたんです。

今、我々の身の回りには、絵の具や筆はもちろん、一眼レフもビデオカメラもノート PC もありますから、道具を自分で作ることなど忘れてしまっていますが、実は、現代を生きる我々にもできることなんです。

僕はクリエイティビティの大切な部分が、その辺りにあるのではないかと思っています。作品を作る際に、同時に「作り方」も作ることができれば、これまでにないアイデアが生まれ、他にはない、新しいものを生み出すことができるのではないかと思うからです。

違う作り方をすれば、違うモノが出来上がる。

例えば映像を撮影する場合、ディレクターが企画を立て、機材を借りて、カメラマンが撮影をするといった決まったプロセスがありますが、固定観念にとらわれずに作品のテーマに合ったツールや方法を新たに編み出せれば、これまでにない映像を撮ることができるのではないかと思うのです。

僕がそう考えるきっかけになった作品があります。「SOUR」* というアーティストの「日々の音色 (Hibi no neiro)」(2007)* という楽曲のミュージックビデオです。この作品は、YouTube* で 400 万回も再生されたのですが、なぜ、それほどまでに多くの人の共感を得ることができたのかというと、やはりその新しい「作り方」に理由があったのではないかと思っています。

作品を見ていただければおわかりになると思いますが、画面に登場するのはビデオチャットのウインドウです。チャットに登場する人たちは、それぞれ別の場所にいる、つながるはずのない人たちなんですが、ウインドウの枠を越えて、頷きあったり、写真を撮りあったりします。まずは作品をご覧ください。

SOUR*「日々の音色 (Hibi no neiro)」*

実を言うと、「SOUR」* は友人が作ったバンドなんです。「いい曲ができたからミュージックビデオを作ってくれないか」と相談されまして、友人だからいいだろうと引き受けたのですが、いざ話を進めようとすると、いろいろと制約があることがわかってきました。まずは距離の問題です。僕は当時ニューヨークにいて、SOUR* のメンバーは日本にいましたから、そう簡単に会うことはできません。さらに予算がほとんどないということも大きな問題の一つでした。これでは、従来通りの撮影はどう考えても無理です。必然的に、新しい撮影の仕方を考え出さないといけない状況だったというわけです。

とはいえ、そう簡単に物事は運びませんでした。とりあえず映像のテーマは、曲のテーマに合わせて「つながり」にしようと決めたのですが、距離や予算といった問題の解決策は見つからず、時間ばかりが過ぎていってしまいました。もうこれは無理だ、断ろうと決心して、ビデオチャットでメンバーと話を始めたのですが、その時ふと、その「ビデオチャットで話す」という状況が、今の時代ならではの "つながった" 状況だということに気が付いたんです。

PC でビデオチャットをしている様子を録画すれば、映像作品として "つながり" を表現できるのではないか、と。しかも、作品を作る工程にも "つながり" という意味を込めることができる。ちょっと面白いことができそうだ、と感じたんです。あと、Web カメラは多くの PC に付いていますから、「この方法ならタダで撮影できる」とも思いましたが (笑)。

では、どうやって作品を作ったのかというと、まずは、さまざまな "つて" をたどって、80 人ほどの協力者を集めました。そのうえで、彼ら一人ひとりに細かな指示を書き添えたコンテを送り、僕の PC とビデオチャットでつないで、演技指導をしたうえで撮影をしました。

「日々の音色」* のために川村氏が作成したコンテの一部。

▲ 「日々の音色」* のために川村氏が作成したコンテの一部。

こう説明すると、なんだか簡単にできたように聞こえるかもしれませんが、実際には面倒なことが多く、二度とやりたくないというのが本当のところですなんですが (笑)、こうして、従来のミュージック・ビデオの撮影にはないやり方で、しかも、作品性にも合致したやり方で撮影を行なったからこそ、他にはない作品ができあがっただけでなく、人々が力を合わせて何かを伝えようとがんばっている、といった雰囲気を出すことができ、見る人の共感を呼ぶことができたのではないかと思います。

ちなみに、出演者の動きについて、「どうやってタイミングを合わせたのか」という質問をされることが多いのですが、これはプロトタイプを作ってその映像に合わせて動いてもらうことで実現しました。この「プロトタイプ」がとても重要なのです。最終的にはすべてのシーンを一度僕らディレクターだけで演技をした動画を使って検証も行ないました。僕自身が、細かく決めてからでないと先に進めないタイプだということもあるのですが、そうすることで必要な映像のクオリティにたどり着けたのだと思います。

検証してわかることは多く、例えば、「一つのシーンの長さはどの程度がいいのか」といったことが体感的に理解できるようになります。さらには、全員の動きが完璧にシンクロしていなくても「ポイントとなる動きのタイミングが合えばいい感じに見える」とか、スピードを無理に合わせるより「ちょっとずれるくらいが気持ちいい」みたいなこともわかってきました。「作り方を作る」際には、こうしてプロトタイプを作りながらクオリティを上げていくことが、とても重要になると思います。

 

物語とテクノロジー

ここからは PARTY での仕事のお話をさせていただきたいと思います。PARTY では「物語と技術 (テクノロジー) を融合する」という点を大きなテーマとしています。最新のテクノロジーと、大昔からずっと変わらない物語を作る技術を組み合わせたら、これまでにない新しいものを作ることができるのではないかと考えているからです。

一つの例としてご紹介したいのが「androp」* の「ブライトサイレン」* という楽曲のミュージックビデオです。壁のように並べた 250 台のデジタルカメラのストロボを利用したアニメーションがポイントになります。

strobo animation of androp 「Bright Siren」*

なぜストロボを使ったのかというと、曲名の「ブライトサイレン」* の「ブライト (光) 」と、曲のサビのキーワードである「思い出」そして「テクノロジー」を組み合わせた結果です。「光」「思い出」から思い出を残す装置である「カメラ」と「ストロボ」が頭に浮かびました。そこから大量のカメラを壁のように並べて制御し、ストロボを「ドット」に見立ててアニメーションを作ってみたらどうか、というアイデアに発展しました。

とはいえ、ストロボを使ったアニメーション表現など、もちろん誰もやったことがありませんから、まずはプロトタイプを作り、検証することが大事だろうと考えました。まずはカメラを制御するプログラムを用意し、3 台のカメラで検証してみることにしました。3 台の制御ができれば、大変だろうけれど 1,000 台でもできるだろう、というわけです。

実際には、1,000 台もカメラを集めきれないということもあって、250 台で実行したのですが。試したところ、問題なく制御ができたので、企画を進めていきました。コンテを描き、映像の流れとストロボで実現するアニメーションの二つの流れをそれぞれ検討していきました。

「ブライトサイレン」* のために川村氏が作成したコンテの一部。

▲ 「ブライトサイレン」* のために川村氏が作成したコンテの一部。

ただし、これで準備完了とはいきません。実際にカメラを並べることができるのは撮影当日だけ。その日にならないと実際のストロボの制御がどうなるか、ちゃんとアニメーションに見えるかというテストができないのです。そこで、PC 上で動く、ストロボの明滅やスピードを細かくコントロールできるシミュレーション・プログラムを作って、実験をすることにしました。

実際にカメラを制御するプログラムとデータの互換性があるよう設計しましたので、PC 上で入力し、調整したストロボのアニメーションを、そのまま利用できるような仕組みにしました。それがうまくいったので、当日は、ちょっとしたニュアンスの調整を行なうだけで、問題なく制御を行なうことができました。

このケースでも、ミュージック・ビデオだけではなく、その "作り方も作った" という形になるわけですが、せっかくなので、映像を見る人にも、その経緯を体験してもらったらどうだろう、と考えました。そこが話題になれば、ミュージック・ビデオそのものにもいい影響を及ぼすだろうと考えたからです。

そこで、PC 上で動くストロボ明滅プログラムを、Web コンテンツに転用し、ユーザーがストロボ・アニメーションをコントロールして「光のメッセージを送る」ことのできるコンテンツを作成しました。また、ストロボ発行時に撮影した写真を見ることのできるコンテンツやメイキングムービーも公開することにしました。作品だけでなく、作品の作り方も見たり、体験したりできる形にしたというわけです。結果的にはこれらコンテンツが好評で、YouTube* 上のミュージック・ビデオの閲覧数アップにつなげることができました。

この経験を通して実感したのは、「作り方」が面白ければ、それもまた一つのコンテンツになりうるということです。作品にまつわる物語にもなりうると確信を持ちました。

ちなみに「作り方が面白い」という例で言うと「スペーシャワー TV」* の「Music saves tomorrow」* についても簡単に触れておきたいと思います。キャンペーンのために作成した映像作品は、「tomorrow とは何だ」と考えるところからスタートして、「子供」→「次のジェネレーション」と発想し、最終的には精子が踊る映像を作りました (笑)。

MUSIC SAVES TOMORROW*

さらにはメイキングムービーを公開したり、精子を採取してモーション・キャプチャーしたものを使ったコンテンツを公開することで、「こいつらアホだ」と話題になりまして、作品自体にもいい影響が生まれました。

作り方が面白いことで、キャンペーンの後押しになるかという実験的な試みだったのですが、手応えを感じた作品だったと言えるかと思います。

 

テクノロジーと体験

あと 3 つほど仕事を紹介しておきたいと思います。いずれも「テクノロジー」が重要な役割をしている作品です。

一つは「androp」* の「ベル」というミュージックビデオ作品です。曲のテーマである「メッセージを伝える難しさ」をテーマに映像を作ることになったのですが、ここでは実際に、メッセージが困難を乗り越えて届く様子をゲームで表現することにしました。ゲームが下手だと、メッセージを構成する一つ 1 つの文字が壊されて意味を成さなくなってしまいます。

こちらもミュージックビデオだけでなく、実際に体験のできるコンテンツを公開しています。

Google* のブラウザである「Chrome」* を使った「World Wide Maze」* というコンテンツは、どんな Web サイトでも立体の迷路にしてしまうというものです。ゲームとしてのバランスや、各サイトが自動的に変化するためのアルゴリズムを工夫し、立体迷路の見た目やアニメーションの見栄えなどもいろいろと工夫をしたのですが、要は、いかに Chrome* というブラウザが凄いのかを、「体験」してもらおうというコンテンツです。

World Wide Maze

World Wide Maze*

最後はインテル アジア・パシフィックとの仕事です。「Ultrabook™」という、薄くて、起動の速いノート PC のモビリティをデモンストレーションする映像作品です。「ほらキレイでしょう」というビデオは他にいくらでもあるので、今までにない、新しいデモの仕方はないかと考えました。その結果思いついたのが、60 人が Ultrabook™ を持ち寄ってパカッと開くと、1 枚のビルボードになるというものです。

人混みの中でいきなり披露したり、イベントで公開したりする工程を、実際に行ったうえで撮影し映像にしました。この作品のポイントは、やはり、動画を分割するプログラムを作ったことにあると思います。ただの映像にはできないことも、テクノロジーを使えばできる。そんなことを示すいい例になったと思います。

Ultrabook™ POP-UP THEATER*

長い時間おつきあいをいただき、どうもありがとうございました。

「違う作り方をすれば、違うものができあがる」ということの意味が、少しでもわかってもらえたら嬉しいなと思っています。その言葉を念頭に置いておけば、新しい表現が見えてくるのではないかなと思っています。

ご静聴ありがとうございました。

 

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